「生きる!」の選択
ALS宣告後、私はしばらく生死の間をさまよっていました。例えて言えば、北アルプスの急峻な尾根に立たされ一歩足を踏み外せば死の奈落に転落する――そんな思いでした。
生きるということはどう死ぬかということ、死ぬということはどう生きるかということ。私たちの年齢になると両者は表裏一体ですね。生きるか死ぬかの選択を迫られましたが、私は「生きる!」を選択しました。理由は単純です。死ねなかったからです。
死ぬにはどんな方途があるか考えました。まず考えられるのは自殺・自死ですが、これは無理だとすぐ判断しました。家族に迷惑がかかるからとも考えましたが、それ以前に手足が動かない状態では物理的に不可能でした。
次に考えたのは誰かに頼んで命を絶つ方法です。その年の暮れ近く、京都でALS患者の女性がSNSで知り合った医師に命を絶ってくれと頼み、実行するという事件が起こりました。「嘱託殺人」という言葉がこの世に存在することを初めて知りました。しかし、法を犯してまでして命を絶つというのは到底受け入れられるものではありませんでした。残されたのは事故死ですが、これは運を天に任せるしかありません。