人間は人間を幸福にできる!きっと

小中学生との交流によって、ようやく今の自分の生き方が周りの人々に生きる勇気と元気を届けることになっているかなと思えるようになりました。私はもともと教育学者ですので若い世代の人たちが健康で明るくそれぞれの人生を切り開いていってくれることを何よりも願っています。

ことに若くして難病や障害と向き合って苦戦している皆さんには頑張ってほしい。難病と闘い重度障害を抱えながらも本を執筆してきた私の生き方から生きる勇気と元気をもらったという人がこの世に一人でも二人でも存在しているとしたら、喜んで残された命をその方々のために捧げましょう。

難病や障害だけではありません。2024年の1月1日に合わせたかのように能登半島地震が発生しました。千葉市に住んでいる私のベッドの前にセットしてあるパソコンも小刻みに震えました。極寒の中瓦礫の下で命を落とした方々の胸中をおもんぱかると、いたたまれなくなり言葉を失います。

2023年に出した『全国水害地名をゆく』(インターナショナル新書)は繰り返し襲う水害・津波に負けず生きてほしいというメッセージを込めた書でした。

海外に目を向ければ、ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルとハマスの戦争などによって多くの人々の命が奪われ、罪のない市民が苦境に追い込まれています。

これらのさまざまな人生苦と闘いながら生きようとしている人々と同じ地平に立って「光の心」を求めたい。今はそれが自分のミッションだと考えています。

自然災害は被害を最小限に抑えるしかありませんが、病気は医学の進歩によって治すことが可能です。障害は世の人々の意識を高めれば乗り越えられます。そして戦争こそ人の力で食い止めることができます。

「人間は人間を幸福にできる!きっと」

そう信じたいと思います。東日本大震災の時「がんばろう!東北」と言われました。それになぞらえて私は心から叫びたい。

「がんばろう!人類」

こんな境地にまで導いてくれたのはALSなので、感謝すべきはALSかな?――人間万事塞翁が馬。

※本稿は、『ALS 苦しみの壁を超えて――利他の心で生かされ生かす』(明石書店)の一部を再編集したものです。

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ALS 苦しみの壁を超えて――利他の心で生かされ生かす』(著:谷川彰英/明石書店)

2018年にALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症し、苦悩と絶望に追い込まれながらも、できることは必ずあるとあきらめずに生きてきた6年間、難病当事者としての著者の想いはどのように変わったのか、そして多くの人との出会いにより何を見つけたのか。

極限の不自由さと引きかえに手にした利他の心に生かされる自分、そして同時に支えてくれる人たちや苦しみの只中にいる人たちを生かしている自分に気づくまでの軌跡を赤裸々に綴る。