2018年にALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症した筑波大学名誉教授・谷川彰英先生は、苦悩と絶望に追い込まれながらも、「今の自分にできること」として、その後も何冊もの本を書いてこられました。今回は、そんな谷川先生の著書『ALS 苦しみの壁を超えて――利他の心で生かされ生かす』から一部を抜粋し、再編集してお届けします。
コロナ感染
2024年開催のエンジン01(ゼロワン)(※)in市原、1月27日の締めは「夜楽」でした。講師を囲んで誰でも参加できる懇親会ですが、この会の演出も私が考えました。講師はコピーライターの岡田直也さんを筆頭に映画プロデューサーの村上典吏子さん、直木賞作家の桜木紫乃さん、それに私でした。
私の体に異変が起きたのは、宴が盛り上がりお開きの午後9時に差しかかろうとしていたまさにその時でした。
突然全身から汗が出る感触に襲われ、苦しくなって目を閉じました。妻が締めの挨拶をしている最中でしたが、私は夢うつつ状態で聴いていました。これまで経験したことのない感触でした。今考えるとそれがコロナ感染の症状だったのですが、兆候はありました。提供されたパスタなどの美味しいはずの料理に、ほとんど手を付けられなかったからです。その時は久しぶりにワインを口にしたせいかな、程度に考えていました。
会場から自宅までは介護タクシーで30分程度の近さだったことが助かりました。翌日体温を測ってみると37.9度、喉の痛みもありました。しかしその翌日には平熱近くに下がったので、特に気に留めていませんでした。
※芸術・科学・文化など、各分野の表現者・思考者たちによって構成されるボランティア集団。年度に一度、会員が講師となってオープンカレッジを開催している。