山登りを続けてきた理由

ところが、カトマンズに戻ると、世界が一変していました。空港にマスコミが大勢詰めかけ、とんでもない騒ぎになっていたのです。

たまたま国際婦人年に当たったこともあり、新聞やテレビでは「日本女性、国際婦人年、飾る」と大々的に報道されました。でも、当の私たちは、自分たちが「世界初・女性初の快挙」を成し遂げたことなど、全く意識していませんでした。

田部井淳子
1975年5月16日、世界最高峰エベレスト8848m頂上に立つ田部井淳子さん(世界女性初)(写真提供:一般社団法人 田部井淳子基金)

「一体、どうしたのだろう。私たち、山に登っただけなんだけど」と、ただただ呆然としていたのです。

はからずもエベレスト登頂で、私は「女性登山家のパイオニア」のように呼ばれるようになってしまいました。でも、私が山登りを続けてきたのは、記録をつくりたいからでも、自分の限界を試したかったからでもありません。私が世界中の山を旅して回っているのは、「自分が見たことのない景色を見たい」から。つまり、私は登山家ではなく、登山を純粋に楽しむ愛好家なのです。

エベレスト登頂から17年後の1992年、今度は「女性で世界初の七大陸最高峰登頂者」という肩書きをいただくことになりました。これも、「七大陸最高峰を制覇しよう」と考えてのことではなく、たまたま登りたい山に登った結果、そうなっていただけのことです。

アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロも、北米大陸最高峰のマッキンリー(編集部注:2015年8月に、“デナリ”に改称。その後、2025年1月に再び“マッキンリー”に改称)も、以前から登りたいと思っていた山でした。