人間模様も肴にする
本を読むような雰囲気ではないお店でしたら、スマホをいじるのではなく、お店を見ましょう。ひとりだとだいたいカウンターになりますが、ぼーっとでいいので厨房の様子を眺めてみてください。必死に働く若者の姿をほほえましく感じたり、料理人の技に感嘆したり、盛り付けを家で試してみようと思ったり、複雑そうな人間模様に想像を膨らませたり。ある意味、最高の肴になりますし、お店っていいなあとつくづく感じると思います。
ついつい耳に入ってくる隣の客の会話の内容に驚くこともありますよね。
私は以前、数年先の予約しか取れないお店で、隣のカップルの壮絶な痴話喧嘩に遭遇したことがあります。きっとお店を予約した時点では仲睦まじい状態だったんだろうと思うと、いたたまれない気持ちになりました。恋人同士で遠い未来の予約を取るというのは、リスキーだと同情したのですが、最終的に重婚だったという話に発展し、店員さんともども崩れ落ちそうになったことを今でも覚えています。
※本稿は、『50歳からの美食入門』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『50歳からの美食入門』(著:大木淳夫/中央公論新社)
食べ歩き歴30年、シェフが絶大な信頼を寄せるグルメガイド『東京最高のレストラン』編集長が教える、中高年のための外食入門。
「ひとりで楽しむ」「高級店、予約の取れない店じゃない店の楽しみ」「慣れて見えるオーダー手順」「サービス人とのコミュニケーション」「カウンター鮨の心得」「会食の店を選ぶコツ」――すべて教えます。




