蔦重が手掛けた作品はやっぱり何かが違う
――ドラマでは多くの絵師が登場しましたが、特にここまでは歌麿が、そして今後は写楽が物語の中心になっていきます。二人の浮世絵師について、アダチ版画研究所の視点からご解説をいただけますでしょうか。
まず、役者絵や美人画というのは、浮世絵の“浮世”という言葉が表す通り、「当世風の絵」、つまりその時代の流行りを捉えたものです。人気の役者や、吉原の花魁、街の看板娘…。そういった人々を描くことで、当時の人々の心を掴んだわけですね。
その意味で、歌麿は、非常に画力のある人だったと思います。ドラマにある通り、早くから蔦重にその才能を見出されていたのでしょう。狂歌絵本のような難しい仕事も若い頃から任されていますしね。
そして、やはり蔦重が手掛けた美人画は、他の版元が出したものとは何かが違うと感じます。もちろん歌麿自身の絵のうまさもありますが、それ以上に蔦重の企画力が光っている。
今でも私たちが復刻する歌麿作品は、蔦重の版元から出たものに名画が多いですし、今もとても人気があります。
一方で、版元と絵師の関係は、いつの時代も難しいものです。若い頃は版元の言うことを聞いていても、人気が出て色々な経験を積むと意見が異なるところもでて、だんだんと衝突するようになる。
ドラマでも蔦重と歌麿の関係性がぎくしゃくする様子が描かれていましたが、それは現代の出版社と作家、漫画家の関係に通じるものがあるかもしれませんね。