黒雲母摺の秘密

――蔦重の生み出した浮世絵の特徴の一つに、ドラマでも登場した背景の黒いキラキラ「黒雲母摺(くろきらずり)」があります。写楽の作品でも使われたというあの技法は、どういったものなのでしょうか?

雲母摺にもいくつか種類があります。

一般的なのは、絵の具に雲母の粉を混ぜて、普通に摺る方法。広重の風景画などにも見られます。でも、写楽の黒雲母摺は全く違う技法です。

黒雲母を使った浮世絵。キラキラとした輝きのなか、肉眼だと、描かれた役者が浮いて見えます

オリジナルの作品をあらためて見ると、経年でキラキラした部分が剥がれているものがあります。普通に摺ったものは、紙に染み込んでいるので剥がれたりしない。つまり、絵の上から“載せて”いることがわかります。

これは私たちの推測ですが、まず絵を摺り上げた後、背景の部分だけを切り抜いた型紙を当てて、そこに雲母と膠(にかわ)を混ぜた液体を塗ったのではないかと考えています。

その液体に墨を混ぜれば「黒雲母」、紅を混ぜれば歌麿の絵にあるようなピンクや白色の雲母になります。だから、写楽の絵は背景が少しポテッとして見えるんですね。

「このような型紙を当てたうえで、雲母と膠をまぜた塗料を塗ったのでは」

この技法は、蔦屋ブランドを特徴づけるものでした。暗い芝居小屋で、ろうそくの光に照らされて役者の顔がキラリと浮かび上がる。その一瞬のインパクトを表現しようとした、蔦重の戦略だったのかもしれません。

ただ、このキラキラ感は、カメラを通じて表現するのがとても難しいとNHKさんがおっしゃっていました。

実際、人間の目で見ると、角度によって光り方が変わってすごく綺麗なんですが、映像でその質感を再現するのは至難の業です。ぜひ、美術館などで本物を見て、その美しさを体感していただきたいですね。