婦人公論.jpから生まれた掌編小説集『中庭のオレンジ』がロングセラーとなっている吉田篤弘さん。『つむじ風食堂の夜』『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』の「月舟町」を舞台にした小説三部作も人気です。
このたび「月舟町の物語」の新章がスタートします! 十字路の角にある食堂が目印の、路面電車が走る小さな町で、愛すべき人々が織りなす物語をお楽しみください。月二回更新予定です。
著者プロフィール
吉田篤弘(よしだ・あつひろ)
1962年東京生まれ。小説を執筆するかたわら、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作と装幀の仕事を手がけている。著作に『つむじ風食堂の夜』『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『おるもすと』『金曜日の本』『天使も怪物も眠る夜』『月とコーヒー』『中庭のオレンジ』『鯨オーケストラ』『羽あるもの』『それでも世界は回っている』『十字路の探偵』『月とコーヒー デミタス』など多数。
第五話
サンドイッチと雷鳴(其の二)
そういうわけで、わたしは毎日、小さなサンドイッチをこっそりいただいている。
ただ、水曜日は〈トロワ〉がお休みなので、自分で小さなおむすびをつくって持参している。前の日の夕食用に炊いたご飯ののこりでつくるのだが、火曜日の夜にうっかり食堂で定食を食べてしまったりすると、水曜の朝に、「しまった」と空っぽの炊飯器を前にして呆然となる。
その日もそうだった。
そういう日に限って、午前中に来客の予定があり、そのための準備もあって、こうした非常事態の救世主である「ひと袋五個入りの小さなアンパン」をコンビニへ買いに行く間もなかった。
(ああ)
空腹──。
しかも、外は雨だ。
大雨ではないけれど、しっとりと確実に体を濡らしてくる雨。
やはり、雨は「嫌われ者」なんだろうか。
雨の日はお客さまも少なくなる。出かけるのが億劫になるからだろう。
だとすれば、お客さまがほとんどいらっしゃらないのだから、束の間、店を閉めてコンビニまで走ればいい。そうすれば、この空腹をしのげる。
店の前へ出て、空を見上げた。
やみそうにない。雲が重たげに動いていく──。
ため息をついて店の中に戻り、
(わたしはやっぱり雨を好きになれないかも)
と肩をすくめた。
なんのことはない。自分もまた出かけていくのが億劫なのだ。
夕方になって、湿度のせいか、洗いたてのスウェットシャツから柔軟剤の香りが匂い立ち、店の中に漂って、なんとなく恥ずかしいような懐かしいような心持ちになった。
そこへ──。
ダ行とガ行とラ行が混在した「ドガロロ」とか「ガラガダ」とでも表記するしかない遠い雷鳴が雨の中に立ち上がった。
こうなると、いよいよお客さまはいらっしゃらない。
でも、こうなると、いよいよコンビニまで走るのが億劫だ。
(ああ)
空腹がこたえる。
わたしのお腹はガ行とラ行の共演だ。
グルルとか、ゴロロとか。
