武豊が理想としていた流れに

午後3時25分、ファンファーレが鳴り、テレビにはスタートゲートが映しだされる。大川和彦は「有馬記念」よりも「オグリキャップの引退レース」を強調している。

ゲートインする前に立ち止まったオグリキャップは、いつものように体を震わせ、静かにゲートにはいる。これが最後だと知っているかのようだ。

(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

「馬場が荒れていたので、内にはいらないほうがいいかなと思ってました。外めを気分よく走らせながら、最終コーナーをまわるときには見せ場をつくりたいなと」

武はそう考えていた。そしてそのとおりの走りをオグリキャップがする。

抜群のスタートをきったオグリキャップはそのまま先行集団の外にポジションをとった。ペースは遅かった。武豊が理想としていた流れになっていた。

「ほんとうはゲートが開いたタイミングが悪かった。ああ、出遅れる、やばい、と思ったらポンとでたんです。いいスタートをきれたのは大きいですね。逃げると思っていたミスターシクレノンが出遅れて、ペースも遅くなった。でも、スローのほうがいいと思いました。乗りやすい馬だから、安心して乗れましたし」

宝塚記念でオグリキャップを破ったオサイチジョージを先頭に1周めのスタンド前を通過していく。遅いペースと大歓声。そのなかでもオグリキャップは落ち着き、静かに外をとおって走っている。

「いいよ、いい感じだよ、と思って乗っていました。ほんと、いいポジションをとれて、ばっちりでしたね。見える馬はぜんぶ見ていましたけど、流れが遅いので、動けたら早めに動こうと思いました。(動いたのは)ちょっと早かったかもしれませんけど、馬の雰囲気がよかったので」

武の考えとオグリキャップの動きがぴったりと合い、2周めの3コーナーから前にあがっていく。そして、4コーナーをまわってオグリキャップが先頭に立った。

「ほんとうに想定どおりで、直線に向いたときには、なんか、勝つなと思いました」