売れなくても楽しかった下積み時代

僕自身も長い間、俳優の仕事がなく、貧しくはありましたが、楽しかったんですよね。つらくてしょうがないとか、やめたいなんて、思ったことがない。

それこそふじき君や、『ばけばけ』にも借金取り役で出演している岩谷健司さんたちと安居酒屋で飲んでいるだけで楽しかった。隣のテーブルに残っているたこわさや枝豆をちょっと頂戴しつつ(笑)、「明日もバイトか」と言いながら。

当時は、警備員から居酒屋、日雇いの作業員、テレフォンアポインター、宅配寿司のデリバリーまで、本当にいろんなアルバイトをしていました。バイト行って飲んで、またバイト行って飲んで、たまに舞台の公演に出て、「また明日からバイトやで」という日々。

『ばけばけ』ではないですが、「それでも生きていることはすばらしいよね」と思っていた気がします。

アルバイトをせずに芝居だけで食べていけるようになったのは、40歳になった頃です。多くの人に顔と名前を知ってもらえるようになったのが、2022年に放送された『エルピス─希望、あるいは災い─』というドラマだとしたら、それは50歳のときでした。

自分が努力して頑張ったからそこに至ったのか、それはよくわかりません。いやむしろ、『ばけばけ』に出てくる怪談を聞いていると、こう思うんです。

この世には目に見えない力があって、自分の力だけではない、人の直接的な助けだけではない何かに、引っ張られるということがあるのかもしれないなと。

それは自分が頑張っているからこそ起きることかもしれないんですけども。でも、振り返ってみると、僕も不思議な縁でここまできたなと思うんです。