作家の古内一絵さん(左)と歌手や俳優として活躍中のドラァグクィーン、ドリアン・ロロブリジーダさん(右)(撮影:本社 武田裕介)
元エリートサラリーマンにして、現在はドラァグクイーンのシャール。そんな彼女が営む夜食カフェを舞台に、様々な悩みを抱える人たちの人生が描かれる小説『マカン・マラン』シリーズ。2025年秋に、第一作から10年ぶりの新作『女王さまの休日―マカン・マラン ボヤージュ』が出版されたのを機に、シリーズの原点である『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』が文庫化。この人気シリーズを紡ぎ続ける作家の古内一絵さんと、歌手や俳優として活躍中のドラァグクイーン、ドリアン・ロロブリジーダさんに、この作品の魅力や世間の価値観にとらわれない生き方について語っていただいた。
(構成:内山靖子 撮影:本社 武田裕介)

シャールさんの魅力にノックアウト

古内 1作目の『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』を文庫化する際に解説を書いていただき、ありがとうございました。ドリアンさんは、どんなきっかけで『マカン・マラン』と出会ったんですか?

ドリアン アタシのファンの方たちから、「絶対読んでほしい!」というメッセージを以前から何度もいただいていて。あるとき、手に取ってみたら、主人公がドラァグクイーン。「これって、アタシの話じゃない!」と思いました。

古内 読んでいただいて、どんな感想を抱かれました?

ドリアン 物語のあたたかさと、シャールさんの魅力にノックアウトされちゃって。シリーズ全4巻を2日ほどで読み終えました。今でも時折ページを開いては、シャールさんの言葉に背中を押してもらっています。

古内 そうおっしゃっていただけると嬉しいです。

ドリアン そもそも、なぜドラァグクイーンを主人公にした作品を書こうと思われたんですか?

古内 私のデビュー作は、『銀色のマーメイド』というティーンエイジャーの性同一性障害を描いた作品で、この小説を描くにあたり、中学生の主人公たちを導く大人のメンターが必要だったんです。思春期まっただなかの中学生って、とても難しい年ごろでしょう。先生や親の言うことなんて聞きやしない。そんな子たちがどんな人の言葉だったら耳を傾けるだろう?と考えたとき、ドラァグクイーンの存在がふっと浮かんだんですよ。

ドリアン それはまた、どうして?

古内 男でもなければ女でもない。ファンタジーの世界からやってきたようなドラァグクィーンが突然目の前に現れたら、その人の言うことを素直に聞いちゃうんじゃないかと思って。

ドリアン それこそ、存在自体がびっくり箱みたいなものですからね。(笑)

シリーズ最新刊『女王さまの休日 マカン・マラン ボヤージュ』(著:古内一絵/中央公論新社)

古内 そうなんです。私自身も、以前、新宿で有名なドラァグクイーンの方にたまたま出会ったとき、ビックリして棒立ちになってしまって。今、思えば、本当に失礼なことをしてしまいました。

ドリアン いえいえ、まったく失礼じゃないですよ。私だったら「もっと驚きなさい」って思います(笑)。「きれい」とか「かっこいい」と言われるのも嬉しいですが、一番嬉しいのは、アタシを見たときに、相手が口をあんぐりとして言葉をなくしているときですから。

古内 本当ですか?

ドリアン ええ、「してやったり」って。(笑)

古内 そんな存在に、「自分のやりたいことをやりなさい」とアドバイスされたら、多感な中学生たちも耳を貸すんじゃないか、と。それで、『銀色のマーメイド』を書くときに、シャールさんに登場してもらったんです。

ドリアン 素敵! デビュー作にすでにドラァグクイーンが。

古内 はい。そうしたら、読者の方たちから「シャールさん、カッコいい」っていう感想をたくさんいただいて。それで、シャールさんがカフェを営む話を書いてみようとスタートしたのが『マカン・マラン』シリーズなんですよ。

「シャールさん、カッコいい」っていう感想をたくさんいただいてスタートしたのが『マラン・マカン』シリーズなんです