「終わらない子育て」の深刻度
たとえば、ある60代女性から聞いた話。
「成人した息子が仕事を辞めて実家にひきこもってしまい、生活費を稼ぐために60歳を過ぎて働きに出なければならなくなった。長年専業主婦をしていたためパソコンなどを使う仕事はできないので、清掃の仕事を始めた」
こちらはある70代女性。
「中学校の頃からひきこもり状態にある40代の息子がいる。70代の夫は年金生活に入っているが、三人で自宅にいて顔を合わせるのがつらい。家族内のトラブルを避けるために、私は今でも会社で庶務の仕事をしている」
今、日本において「ひきこもり」の問題は深刻度を増している。ひきこもりとは、厚生労働省の定義では、「様々な要因の結果として、就学や就労、交遊などの社会的参加を避けて、原則的には6か月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態のこと」を指している。2022年の内閣府の調査では、ひきこもりの人は全国に146万人いることがわかっている。同様に、高齢の親と暮らす独身の子どもの割合も、年を追うごとに増加傾向にある。
子どもの自立が遅れ、高齢の親が働き続けなければならない問題にはさまざまな背景がある。たとえば、子どもの教育費が想定よりも膨らんだため、定年退職後もフルタイムで働き続けなければ、教育ローンの返済が終わらないというようなケースがある。
またひきこもりになった子どもが高額な買い物をし続け、クレジットカードの返済に追われているシニアもいる。経済的に深刻な状況を抱えて、働かなければならないシニア世代の親が増加していることがわかってきたのだ。
