アイデンティティーの行き場
1975年生まれの筆者は子ども時代に祖母と同居していたが、忙しい両親に代わって筆者を育て、生きる知恵を授けてくれたのは大正生まれの祖母である。彼女は家事の他に、戦争時代の暮らし、女の一生についてなど、孫に人生そのものを伝える役割を果たしていた。
かつてはこうした「知恵や経験の継承」が高齢者のアイデンティティーになっていたのだろう。
しかし高齢者は現役世代と同居しなくなり、独立して自らの生活を支えなければならなくなった。そして、彼らのアイデンティティーの行き場も失われている。今のシニアは自己を表現・開放する場を家庭ではなく、賃金労働に求めなくてはならなくなっている。
※本稿は、『ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
『ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか』(著:若月澪子/朝日新聞出版)
『副業おじさん』で話題を呼んだ労働ジャーナリストが、21人の高齢労働者に密着取材。
やりがいと搾取の狭間で揺れる姿を通して、現代日本が抱える「見えにくい貧困」と「孤立の構造」に鋭く切り込む。
「働く高齢者」の実像に迫る、渾身のノンフィクション!




