アイデンティティーの行き場

1975年生まれの筆者は子ども時代に祖母と同居していたが、忙しい両親に代わって筆者を育て、生きる知恵を授けてくれたのは大正生まれの祖母である。彼女は家事の他に、戦争時代の暮らし、女の一生についてなど、孫に人生そのものを伝える役割を果たしていた。

かつてはこうした「知恵や経験の継承」が高齢者のアイデンティティーになっていたのだろう。

しかし高齢者は現役世代と同居しなくなり、独立して自らの生活を支えなければならなくなった。そして、彼らのアイデンティティーの行き場も失われている。今のシニアは自己を表現・開放する場を家庭ではなく、賃金労働に求めなくてはならなくなっている。

※本稿は、『ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。

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ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか』(著:若月澪子/朝日新聞出版)

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