心配事への心構え
――心配事の99パーセントは起こらないと言われますが、どう思いますか?
残間 ドラマは必ずと言っていいほど心配事が起こる流れですが、と補足してありますけれど、どうでしょうか?
大石 私は長期悲観主義なので、人生は基本苦しいと思ってます。だから、辛いことがあっても、一々驚きません。ちょっとだけいいことがあれば、本当にラッキーだと思います。心配事が起きるか起きないかということに一喜一憂しても意味ないと思いますから。
中園 さすがに最近はないですけど、以前は夜中に呼び出されて「こんなセリフ言えない」とか俳優さんに抗議されることがあったんです。そういうことがあったので心配しようと思ったら幾らでもあるけど、心配してもしょうがないので、なるようにしかならないと思うクセがつきました。
残間 心配事というとね、9.11もあり3.11もありで衝撃的な映像を観たり、大きなショックを受けたりして、みんなの感情が過剰にセンチメンタルになったりしますよね? 個人的な不安ではなく、国民的な不安というのもあるわけですけれど。
大石 私は不安から生じるセンチメンタルな流れに乗ってはいけないと思ってます。たとえば3.11以降、ドキュメンタリー一つとっても、妙にセンチメンタルな音楽を流して、人情噺に落とし込んでいて、本質的なところに触れない作りになってきました。そういうことに騙されないという気持ちです。もちろん私1人ではでききれないけれど、本質を見つめることから離れてはいけないという意識を持ち続けていたいです。
残間 中園さんはどうですか?
中園 うーん、私は国民的な不安みたいなことについて考えるのが苦手で…。ただ、そんなちゃらんぽらんな私であっても戦争はいけないと思っていて、世界情勢を見る中で戦争の恐ろしさや愚かさを脚本を通して伝えなくてはいけないと強く思っていた矢先に『あんぱん』を手掛ける流れが来たんですね。やなせたかしさんを描くということは戦争を描くことだったわけです。しかも戦後80年という年に放映されるということで、脚本家としての私の使命なのかなと思いました。
残間 『あんぱん』という夫婦の物語の中に戦争のシーンが克明に描かれていたというのはインパクトが強くて、戦争は絶対にしてはいけないと改めて思った人が多かったようですね。
中園 若い監督とは怒鳴り合ってましたけどね。こんなに戦争のシーンを長くしたら視聴率が落ちるって怒られていたんですよ。チーフ監督が反戦の意識が強い人で私の考えに理解を示してくれたので良かったんですけど、私もここは譲れないという思いでいました。考えてみると私達って戦争の話を親から聞ける最後の世代ですよね。私は親からは戦争の話はほとんど聞いてないのですが多少は聞きました。
残間 聞いてもあまり話したがらないという人が多いというのも聞きますよね。
中園 そうなんです。ところが同級生の何人かから『あんぱん』を一緒に観ていたら、親が突如として戦争中のことを話し始めたという報告を受けまして。それを聞いて戦争時代のことを何十話もかけて描いた意味があったなと。それから北村君はじめ俳優さんたちが戦争シーンを熱演してくれたおかげで、若い人達にも戦争の恐ろしさやむごさが伝わったと思ってます。
残間 若い人達からそういう感想が寄せられたのですね?
中園 若い人の中に戦争ってカッコイイじゃんみたいな風潮があると聞いていて、それこそが本当に恐ろしいことだと感じていたのですけれど、「あんなにヒモジイ思いを強いられるなんてあり得ない」といった声がたくさん寄せられました。すべて、やなせたかしさんの史実で、実際は何度も餓死しそうになったり、もっと壮絶なんですが、ドラマを観てくれた若い人の心にも響いたようです。
残間 敗戦し、終戦を迎えると大人達の価値観がコロリと変わってしまいます。先生に言われて教科書の軍国主義的なところを墨で塗りつぶすと教科書が真っ黒になって。のぶが大きな衝撃を受けた様子も丁寧に描かれていましたね。
中園 のぶは大正生まれなのですが、のぶと同年代の女性達はほぼ全員軍国少女だったわけで、つまり純粋だったし無垢だったんですね。実際「お国の為に命を捧げる」と綴られた作文もたくさん残っています。そうした資料を見て、これまでの朝ドラのヒロインの多くは反戦主義だけれど、やっぱりそこはちゃんと書かなくてはと思って書きました。
残間 私は軍国少女達の戸惑いがしっかり描かれているところが素晴らしいと思いました。
大石 ヒロインを軍国先生にしたところが、この朝ドラのもっともすぐれた表現だと、私は思ってました。本当はみんなこうだったのだろうなあって、視聴者もきっと思ったと思いますから、そこがゾッとする凄さでした。
中園 ありがとうございます。