隣できいていた波子がはじめて口を開いた。
「それはわからないよ。ハルだって結婚してない。明日子もモダンガールになったかも」
ハルは波子が冗談をいうのをはじめてきいた。
「波子さんまで小姐みたいなこといわないでよ。そりゃその可能性もあるけど――」
「わたし、みんながうらやましい。わたしの時代は結婚しかなかった。わたし、ほんとうは内地の美術学校に留学したかった。でも、親の命令で十六で結婚して、子どもを産んで……。わたしの人生どこにいっちゃったのかってよく思うわ。だから、ハル、記事を書いて。うまくいえないけど、わたし、その秀玲も明日子も、わたしたちだって気がする」
はじめてきく波子の本音が胸に迫ってきて、ハルは目頭が急に熱くなった。上を向いたが間に合わなくて涙がテーブルの上に落ちる。
「ああ、もう! そんな悲しいこといわないで。波子さんはすばらしい挿絵を描けるじゃない。あたしなんてぜんぜんだめよ」
そういってハルは手に持っていたハガキをテーブルの上に投げだすと、指で涙を拭った。玉蘭がさっとハンカチをポケットから取りだしてハルの涙を拭う。
波子はハルが泣いているあいだ、じっとテーブルの上のハガキに書かれた文字を目で追っていた。口にだして考えているようだ。
