それまでの親しげな笑みが一変して、目に強い不安の光が宿っている。あわててハルは隠さずに事情を説明する。自分がいま記者として恩寵高女に潜入していること、そこで十年前の事件を秀梅からきいたこと、そして、チャペルで明日子からのハガキをみつけたこと――。

 そこまで話したとき、ハルはその女性が秀玲であるという確信を持った。明るく輝く鳶色の目は、秀梅と瓜二つだった。 

「信じられない! 明日子があたしにハガキを書いていたなんて。全部忘れて内地に帰ってしまったって、ずっとずっと恨んでいたのよ。それに秀梅……ほんとうに懐かしいわ。あたし、家をでてから何通も手紙を送ったの。でも、きっとあの子には届いていないのね……」

 ハルは、鞄のなかから明日子のハガキを取りだして、テーブルに置いた。

 秀玲はそのハガキをしばらく食い入るようにみつめていた。それから、ふっと笑うと、明日子らしいわ、ほんとに考えが浅いんだから、とつぶやいた。

「メッセージの意味がわかるんですか?」と京也。

「ええ、たぶん、汽車の番号でしょ」

 ――ああ、やっぱり波子さんのいうとおりだった。

「明日子、よくいってたの。お父さまに結婚させられるくらいなら、わたし、汽車で秀玲と駆け落ちするわって。台湾は小さい島なんだから、南にいっても北にいってもたかがしれてるのに、あの子、本気でなんとかなるって信じてた。でも、結局あの子は家から逃げられなかった」  

 深く沈んだ表情の秀玲に、ハルはどんな言葉をかけていいのかわからなかった。

 会話が途切れたところで、京也が、飲みものの注文がまだでしたね、とボーイを呼び止めて、ビールを注文する。

「さすがにお酒をのんで帰ったら、謹慎じゃすまないわ!」とハル。

「変なひとだなあ。あと一週間で学校も終わりだし、これ以上取材することもないなら、別に停学でも退学でもかまわないでしょう? 『モダンガールのおハル』の名が泣きますよ」

「からかわないでよ! まだみんなにお別れもいってないし、櫻井先生に怒られるのもごめんだわ」