(写真提供:Photo AC)
厚生労働省の「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況」によると、2024年の悪性新生物(がん)の死亡数は38万4111人で、死亡総数に占める割合は23.9%だったそうです。「2人に1人はがんに罹る」と言われるなか、高松宮妃癌研究基金理事長や静岡県立静岡がんセンター名誉総長を務める慶應義塾大学客員教授・山口建先生は「今では6割の人々が治癒するが、それでも患者は時として『身体と心の弱者』になってしまう」と語ります。そこで今回は、山口教授の著書『高齢者とがん-健康管理、診断・治療から心と暮らしのケアまで』より一部引用・再編集してお届けします。

一般のがんと遺伝性がん

下図表に示すように、がんの大多数を占める一般のがんは、人間として誕生したあと、身体を形作る一つの細胞に起きたゲノム・遺伝子変化が原因で生じる。両親からゲノム・遺伝子変化を引き継いだわけではなく、患者の子孫にもその変化を伝えないため、その患者ひとりだけの「孤」の病態として「孤発がん」と呼ぶこともある。

<『高齢者とがん-健康管理、診断・治療から心と暮らしのケアまで』より>

また、この場合のゲノム・遺伝子変化は、精子や卵子のような生殖細胞ではなく、患者の身体を形作る体細胞のみに生じた変化として「体細胞系列のゲノム・遺伝子変化」と称される。

これに対して、両親の生殖細胞、すなわち男性の精子や女性の卵子に細胞のがん化を引き起こすゲノム・遺伝子変化が存在し、それが受精卵を介して生まれた子どものすべての細胞に受け継がれ、後に高頻度にがんを発生させる「遺伝性がん」が、がん全体の5%程度存在する。生殖細胞を介して、親から子へ伝わることから、この場合の遺伝子変化は「生殖細胞系列のゲノム・遺伝子変化」と称される。

がん細胞は、細胞の分裂や機能分化に関わる約1000種類の遺伝子の変化によって生じることが明らかにされており、この一群の遺伝子をがん関連遺伝子として分類している。遺伝性がんは、親が、このうちの数十種類の遺伝子のあるものに生まれつき変化を持っており、それが子に受け継がれ、子ががんを発症する病態である。代表的な疾患としては、BRCA1/BRCA2 遺伝子の変化による遺伝性乳がん・卵巣がん症候群やAPC 遺伝子の変化による家族性大腸ポリポーシス、あるいは数種類のDNA修復遺伝子の変化により大腸がんや子宮体がんが発生するリンチ症候群などが知られている。