倫理的・法的・社会的諸問題
こうして、遺伝性がんの研究は、医学に大きな進歩をもたらしたが、その一方で、「倫理的・法的・社会的諸問題」という新たな課題が生まれた。
患者自身にとっては、診断されたがんだけでなく、将来、異なるがんが高頻度に発生するという不安、また、患者自身が、子孫の病気の原因は自分なのだという罪の意識にさいなまれる精神的負担を負う。さらに、1人の遺伝性がん患者を診断することによって、血縁者の一部は、本人の知らないところで、がん発症のリスクが高いという診断を間接的に受けることになる。
また、遺伝性がんの患者や血縁者と診断されることによって、結婚、就職、生命保険への加入などの面で、社会的な差別を受ける可能性が生じる。
このような課題に対応するため、2023年、国会で「ゲノム医療推進法」が成立し、それをもとに基本計画が策定される運びとなった。現状では、遺伝性がんの診療にあたる医療機関は、患者・家族のプライバシーの保護や心のケアなどに配慮せねばならず、遺伝カウンセリングを実践する臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーなどの専門職の存在が欠かせない。
※本稿は、『高齢者とがん-健康管理、診断・治療から心と暮らしのケアまで』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『高齢者とがん-健康管理、診断・治療から心と暮らしのケアまで』(著:山口建/中央公論新社)
本書は、がん発生のメカニズムから健康管理、正しい診断と最善の治療、退院後の注意点まで、最新の医学を解説。
また、高齢がん患者と家族の心のケアのために何ができるか、がんと向き合うための心構えをどう持つか、1万人以上の患者・家族の証言をもとに説く。




