ニュージーランドでは3人目となる女性首相、ジャシンダ・アーダーン氏(写真提供:AFLO)
来週5月26日発売の『婦人公論』から特別に記事を先出し!〉新型コロナウイルスという未知の病に世界中が苦慮するなか、対応が優れていると言われる国々があります。オーストラリアと日本を行き来し、ジェンダーの問題にも詳しい小島慶子さんにレポートしていただきました

科学的事実に基づいて人命を最優先

新型コロナウイルスの対策が早期に奏功した国のリーダーには女性が多い、と言われています。

早期に国内のロックダウン(都市封鎖)に踏み切り、4月20日に「市中感染の封じ込めに成功した」と宣言したニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相。感染者数は多いものの医療体制を整えて致死率を低く抑え、経済的な打撃を受けた文化芸術への速やかな支援を行ったドイツのアンゲラ・メルケル首相。IT技術を駆使してマスクを行き渡らせ、徹底した情報公開で世界の注目を集めた台湾の蔡英文総統とデジタル担当政務委員のオードリー・タン氏。

無症状者も含めた積極的な検査と接触者の追跡及び隔離を行ったアイスランドのカトリン・ヤコブスドッティル首相。SNSのインフルエンサー1500人を通じて正確な情報を発信し、フェイクニュースや誤った情報の拡散を防いだフィンランドのサンナ・マリン首相。いずれも先進的で迅速な措置が奏功しています。

韓国やオーストラリアなど、男性リーダーのもとで感染拡大の抑制に成功しつつある例もあるので、「女だから優れている」というのは安易な見方ですが、2020年1月1日現在、女性の首脳は世界中に13人(バングラデシュ、バルバドス、ベルギー、ボリビア、デンマーク、フィンランド、ドイツ、アイスランド、ニュージーランド、ノルウェー、スイス、セルビア、台湾)しかいないことを考えれば、コロナ対策に成功しつつあるリーダーたちにこれだけ女性が多いのは、やはり注目すべきことです。

彼女たちに共通する特徴は、科学的事実に基づき人命を最優先する施策と迅速性、そして国民とのコミュニケーションの重視です。

なかでも4月9日に2週間の自主隔離から復帰したドイツのメルケル首相が行った演説は、日本のSNSでも数多くシェアされました。外出自粛で鬱屈する国民の気持ちに寄り添いつつ、医療崩壊を起こさないためには、今は外出自粛とソーシャルディスタンス(社会的距離)を保つことが重要だと丁寧に説明。

「連邦政府を頼ってください。政府と私個人がこの仕事を担うことに期待していてください」「政府としてできることはすべてやる心づもりです」「“その後”は必ず訪れます。心から祝うことのできるイースター休暇はまたやってきます」と希望を与えました。

有言実行でさまざまな支援策が打ち出され、零細企業や個人事業主に対しても、所得制限はあるものの3ヵ月で最大180万円もの助成金を決定。申請からわずか2日で60万円が振り込まれたという人も。

また、記者会見で“1人の感染者が新たに感染させる人数(基本再生産数)を1人未満にすることが重要なのだ”と数値をあげて簡潔に説明。原稿を見るのではなく自ら理解した知識を淀みなく述べるさまは、物理学者でもある彼女が明晰な科学的思考の持ち主であることを示しました。

本論考が掲載される『婦人公論』6月9日号(5月26日発売)

科学者の意見をきかないリーダーたちが迷走を続けている世界の有様を見ると、サイエンスを軽視する人物をトップに据えることがいかに危険かがよくわかります(感染者に殺菌剤を注射するのはどうかな? と言った大統領もいましたね)。

メルケル首相の演説全文を読んで、危機の最中に自国のリーダーからこのような言葉を聞ける国民は幸せだろうなと思わず遠い目になってしまった人は多いでしょう。私も人生最大級の遠い目になって、ドイツが見えるんじゃないかと思いました。