夫から示された条件に目を疑った

しかし後日、夫から示された条件に女性は目を疑った。住んでいるマンションの販売価格を査定した書類が突然届き、メールでこう告げられた。

「家を売ることにした。今月中に出て行ってほしい。でなければ、一切の生活費は払わない」

『ルポ 熟年離婚』(著:朝日新聞取材班/朝日新聞出版)

夫とは、短大に通っていたときに友人を通じて知りあった。第一印象は「変な人」。あいさつを返さず、マイペースでわがまま。しかしサークルで飲み会をするときは、彼が好きなメニューにみんなが合わせるなど、そのわがままさが周囲に受け入れられてしまう不思議な魅力があった。

いつの間にか、「これまでに会ったことのない、面白い人」と感じるようになり、交際を経て29歳で結婚。三人の子どもに恵まれた。

夫は、女性が好きな推理小説の新刊をよく買ってきてくれたし、お互いの誕生日には毎年お祝いもした。30年近い結婚生活で、ケンカは一度もなかった。ただそれは、コミュニケーションが希薄だったからじゃないか、と今は思う。