ライター兼編集者の穴澤賢さんは、愛犬たちが快適に暮らせる環境を求めて、2023年に八ヶ岳に移住しました。今回は、そんな穴澤さんの著書『犬のために山へ移住する: 200万円の小屋からはじまる、不便でも幸せな暮らし』から一部を抜粋し、穴澤さんが山への移住を考えるきっかけになった、愛犬「富士丸」のエピソードをお届けします。
山に惹かれるようになったわけ
山で暮らしたいと思うようになったきっかけを話すのには、時間を少し遡らないといけない。
大阪府豊中市の庄内という街で生まれ育った私は、山への憧れなんて一切なかった。パンチパーマをかけた中学生がうろつくような下町で(当時)、私といえばバンドマンに憧れ、部屋で音楽を聴いたり、ギターを弾いたり、インドアな青春時代を過ごした。
28歳で上京してからはバンド活動にあけくれ、アウトドアとは正反対の高円寺や下北沢の居酒屋で飲んだくれる毎日だった。音楽では食えないから派遣社員やバイトなどをして、稼いだお金は家賃と酒代で消える生活だった。絵に描いたような駄目人間で、追いかけていた夢すら忘れて堕落していた。
そんな私の転機となったのは、富士丸という犬との出会いだった。当時私は30歳で一度目の結婚をしていたが、二人揃って稼ぎが少なく、心に余裕がなくなり、次第に関係がギスギスしていった。そんなときに妻が「犬を飼いたい。犬がいればうまくやれる気がする」と言ってきたのだ。
暮らしに余裕がないのに何を言ってるんだと思ったが、犬を飼いたい気持ちはあった。なぜなら子どもの頃から実家にはいつも犬がいて、大好きだったからだ。
そこで私が妻に出した条件は「ペットショップでは買わない。里親募集している犬をもらうなら飼ってもいい」というものだった。子どもの頃から犬はもらってくるもので、「犬を買う」という行為に強い抵抗があったからだ。