富士丸との出会い

それから「いつでも里親募集中」というサイトを眺める日々が続いたが、ある日、一枚の写真に目が止まった。千葉にあるブリーダーのところでコリーが柵をぶち壊してハスキーを孕ませて生まれてしまったという仔犬たちが並んでいた。写真の横に、誰かもらってくださいと記載されていた。

そこで連絡して千葉まで夫婦で訪ねて行った。案内されたケージの中には、5頭ほどの仔犬がワンキャン鳴いていたが、その奥に隠れている一番小さいやつがいた。出してもらうと、そいつは目がブルーで、頭が大きくバランスが悪くてなんだか変な犬だった。だけどなぜか、私は妻に相談もせず「こいつ、連れて帰ってもいいですか?」と言っていた。それが富士丸との出会いだった。

『犬のために山へ移住する: 200万円の小屋からはじまる、不便でも幸せな暮らし』(著:穴澤賢/草思社)

それからのことは割愛するが(詳しくは『ひとりと一匹』(小学館文庫)参照)、結局犬を迎えても夫婦関係は改善せず、半年ほどの別居を経て離婚した。わずか1年半ほどの結婚生活だった。離婚の条件はひとつだけ。妻も富士丸を引き取りたいと希望したが、会いたいときはいつでも会わせるという約束で私が引き取ることになった。二人とも富士丸を溺愛していたのだ。

そして渋谷区初台の1LDKで富士丸とのひとりと一匹の生活が始まったわけだが、その頃、私は音楽の道は挫折して、あるデザイン事務所で健康雑誌のライター兼編集者見習いをしていた。けれど、その健康雑誌が売れなくてすぐに廃刊になり、デザイナーではない私の仕事はなくなった。