富士丸のために山に移住しようかな

それでもひとりと一匹の暮らしは、とても心地よかった。フリーになったから家で仕事ができるようになったし、連載という名目で富士丸とたくさん遊びに行けた。

そんな日々の中で、少しずつ富士丸のために山に移住しようかなと考えるようになった。山へ遊びに行く度に、目を輝かせて喜ぶからだ。お前のおかげで俺はフリーライターになれた。なら恩返しに、お前が大好きな山で暮らそうか。

最初はぼんやり思っていただけだが、次第に目標になり、なんとか実現したいと考えるようになった。昔から大好きだった「山のふもとで犬と暮らしている」(RCサクセション)という曲が脳内で再生され、私と富士丸だったらとイメージを膨らませていた。

そんなとき、思いがけずチャンスが訪れた。あるハウスメーカーと組んで、私が実際に山に家を建てるまでを連載にしようという企画が立ち上がったのだ。とはいえ、家は実費で購入しないといけない。多少の値引きや特典はあるかもしれないが、土地と家を含めれば何千万というローンを組むことになる。

富士丸のために山へ移住したところで、彼がどれだけ生きるのか。ほぼ確実に私より早くいなくなる。そのことは十分頭ではわかっていた。でもせっかく出会ったんだ、ずっと都会の狭い1DKで暮らすより、山へ行ったほうがうれしいだろ。お前が喜ぶならそれでいいよ。いなくなった後どうするかは、そのとき考えよう。それくらいの気持ちだった。それだけ富士丸のことを心の底から愛おしく思っていたのだ。