義理の両親を思い返して感じるのは、きちんとした人たちだということだ。義父の貴之は神社仏閣の修繕を専門とする宮大工の工務店に勤めており、七十を過ぎた今でもときどき現場に呼び出されている。仕事柄、貴之は長期で家を空けることが多く、家と二人の息子を守るのが英子の役割だったらしい。よく働く夫と、よく家を守る妻。絵に描いたような、古き良き日本の夫婦だ。
彼らと比較して、舞子の実家はずいぶん型破りだ。なにしろ、幼少期から父親がいない。舞子の父親は、母親と出会った頃はただの堅実な勤め人だったが、部署異動で人間関係が変わったのをきっかけにギャンブルにはまり、生活費に手をつけるほどのめり込んだ。深夜に部屋の電気をつけずに家中の引き出しを開け、舞子のランドセル代を取り分けた茶封筒を探し回っている背中を見て、舞子の母親は離婚を決意したらしい。もう人間っていうより妖怪みたいだった、私が人生で唯一出くわした妖怪、と舞子が中学に入った頃、母親の温子(あつこ)はため息交じりに教えてくれた。
幸い温子には近隣に暮らす関係が良好な兄姉が多くいて、舞子は親族の助けを借りて不自由を感じることもなく大きくなった。早くに母一人子一人の関係になったせいか、舞子が物心つく頃には、娘と母親の間には親子というより、生活を助け合う同居人のような空気が濃く漂っていた。仕事で帰宅が遅くなった温子のために夕飯を作っておくのは舞子にとって当たり前のことだったし、温子は喜んでその夕飯を食べた。温子は職場であったいいことも悪いこともあけすけに舞子にしゃべり、舞子は舞子で友人関係の悩みや物理の授業がてんで分からないことを温子に愚痴った。
