まだ数年先の話になるが、舞子が温子に古希のプレゼントを選ぶとしたら、なにも迷うことはない。彼女が大好きな銀座ウエストのクッキーと、気持ちがぱっと明るくなる色柄のフェイラーのハンカチ、さらに紫のリボンをかけた落ち着いた色合いの薔薇の花束を手渡し、「いつもありがとう。これからもよろしくね」と伝えればいい。喜びのポイントが明確に分かるくらい、温子のことならよく知っている。
ただ、義母の英子は難しい。好き嫌いをあまり口にせず、もくもくと家族の世話をする姿ばかり記憶に残っている。子供の前でも喜怒哀楽をあらわにし、率直に人生の体感を語る温子とは、明らかにタイプが違う。
たとえば銀座ウエストのクッキーにフェイラーのハンカチ、そして花束を渡したら、英子は喜んでくれるだろうか?
そんな想像をし、舞子はふと立ち止まった。花束。そうだ、どんなプレゼントを選ぶにせよ、花束を添えるのはなかなかいいアイディアなんじゃないか。
出典=婦人公論
彩瀬まる
作家
1986年千葉県生まれ。上智大学文学部卒業。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。『やがて海へと届く』が映画化、『くちなし』『新しい星』で直木賞候補となる。他の著書に『眠れない夜は体を脱いで』『森があふれる』『みちゆくひと』などがある。
