「素人トップ」×「過度のスピード重視」は要注意

WELQ問題は、大企業が新規ビジネスを進めるなかで、法的・技術的あるいは社会的リスクを過小評価し、結果的に重大な不祥事へ発展した事例である。以下の特徴がみえる。

第1に、経営トップや事業責任者の専門知識不足である。統括責任者が医療法や薬機法といった規制の知見を持たず、IT的手法を医療・健康分野にそのまま適用した結果、大量の誤情報を生んだ。

第2に、スピードと収益性を優先した結果、リスク評価が後回しになった点である。多サイト同時立ち上げという目標のもとで専門家による監修や法務チェックが軽視された。こうして新規事業拡大が目的化し、安全性やユーザー保護が後ろに退いた。

第3に、不祥事発覚後の対応で説明責任を果たせなかった点である。責任者が謝罪会見に同席せず、経緯説明も不十分であった。

総じて、大企業であっても専門性を要する領域に十分な準備なく参入し、短期的成果を急げば、重大なリスクが顕在化する。経営トップは最低限の法務・セキュリティ・業界固有の知識を持ち、必要に応じて専門家を配置する体制を整えなければならない。スピードやリスクテイクを否定するものではないが、一度の不祥事がブランドと事業基盤を大きく損ない、その回復には長い時間とコストを要する。

この事例は、「急成長を狙う企業ほど、リスク管理を軽視してはならない」こと、そして「その重要性を理解できるトップ人材の配置が不可欠であること」を示している。

※本稿は、『企業不祥事の真相 「普通の人」を悪者に仕立てる歪んだ構造』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。

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企業不祥事の真相 「普通の人」を悪者に仕立てる歪んだ構造』(著:秋山進/日経BP 日本経済新聞出版)

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