警備員とお客さんは仲間
開門時間が近づくと、門の外にぞくぞくとお客さんが集まってくる。男性が主だけど、女性もカップルも家族連れもいる。
警備員としての最初の仕事は、入場するお客さん数のカウント。カチッカチッとカウンター機で数える。とくに難しい作業ではないが、入場無料ということもあって、入退場をくり返すお客さんがいる。重複しないように顔を覚えなくてはいけない。
門の外側では、年配の女性が予想紙を何種類も手売りしていた。80代くらいだろうか。来場するお客さんに次々と声をかける。そのほとんどが買っていく。
「おばちゃん、1つちょうだい」
自分から声をかけるお客さんも多い。この予想紙はよく当たるらしい。ほとんどのお客さんが、1000円札を渡し、お釣りは受け取らない。ほかの警備員のかたに聞くと、いつからかわからないほど昔からその女性は予想紙を売っているそうだ。お客さんにとっては母親のような世代にあたるのだろう。彼女には、だれもがやさしい。
お客さんは、警備員にも声をかけてくる。レースの話だけではなく、地元の政治的なことも言ってくる。警備員も仕事にさしさわりないくらいに対応する。ここではお客さんたちと働く人たちによるコミュニティが形成されている。
そのとき、警備員に召集がかかった。客席で男性客が転倒してけがをしたらしい。警備中の人も待機中の人も、現場に駆け足で向かっていく。僕も後について走った。けがをしたのは70代くらいの常連客。見たところ、脛に擦り傷がある程度だ。しかしお客さんは、まるで大けがであるかのように顔をしかめている。警備員たちも過保護に思えるほど気遣う。けがをした人はちょっとうれしそうだ。
「けがした男性、大げさ過ぎませんか?」
疑問をすぐに口に出してしまうところが僕のよくない性質だが、仕事柄しかたがない。
お客さんは大げさに痛がる。レース場のスタッフは大げさに心配する。それによって両者のいい関係が成立しているようだ。そのお客さんは医務室に連れていかれ、手厚く手当を受けていた。大けがの場合はもちろん現場で処理はせず、救急車を呼ぶ。また大きな喧嘩が起きたときのために、警備員のなかに常に3人、警察のOBがいる。彼らがその場をじょうずに収め、それでも混乱が続くようならば、現職の警察官を呼ぶシステムがきちんと出来上がっている。