お初はこれまでにない女方

<鴈治郎さんの徳兵衛の転機は海外公演だった>

その後、父が『曽根崎心中』をイギリスに持っていきたいと言い出しました。近松門左衛門という日本が誇る戯作者の作品を、シェイクスピアの地元で 披露したかったのでしょう。2001年5、6月に近松座イギリス公演が実現することになり、私は徳兵衛をつとめろと言われ、喜んで行きました。この海外の公演で触発されたことがありました。

『曽根崎心中』は初演時、お初という役がセンセーショナルで、大きな反響を呼びました。心中に向かうお初と徳兵衛の花道の引っ込みで、女性であるお初が先に引っ込むというのは歌舞伎では異例の演出。祖父がつまずいたか何かで父の咄嗟の判断でお初が先に、となったようです。心中の覚悟もお初から問う。これまでにない女方を父がやったことによって、『曽根崎心中』イコールお初となっていたのです。

ところが、歌舞伎になじみが深くないイギリスでは、ドラマとして見て下さり、徳兵衛の存在をきちんと認めて下さった。私は、これまでやってきたことは間違いない、これでやっていけばいいと思いました。徳兵衛を演じた回数は祖父を超えました。だから何だという感じで、私の中では相手役として父が認めてくれたことが一番、意味があることなのです。

四代目中村鴈治郎さん
「私の中では相手役として父が認めてくれたことが一番、意味がある」