「死ぬる覚悟が~」のセリフも父のもの
<『曽根崎心中』は、映画『国宝』のクライマックスで重要な役割を果たす。縁側に腰掛けるお初が縁の下に潜む徳兵衛に、独白で「死ぬる覚悟が聞きたい」と問い、徳兵衛がお初の素足を喉元に当てて、死の決意を伝える場面。映画『国宝』では、主役の立花喜久雄を演じた吉沢亮さんが徳兵衛、ライバルの歌舞伎界御曹司の大垣俊介を演じた横浜流星さんがお初の役。鴈治郎さんは2人の演技指導をした>
演技指導の際、吉沢さんと横浜さんに見てもらったビデオは、今回シネマ歌舞伎化された2009年の父と私の『曽根崎心中』(6台のカメラで撮影)を1本にまとめたものです。それを元に「今日はこうやろう」ということを繰り返しました。だから、喜久雄がつとめたお初のモデルは父、「死ぬる覚悟が~」のセリフも間違いなく父のものです。
シネマ歌舞伎では、『国宝』で注目された演目『曽根崎心中』のリアルを見ることができて、歌舞伎の『曽根崎心中』のブームが来るかもしれません。吉沢さんに「お前の『曽根崎心中』は残るかもしれないけれど、俺のは残らないかもしれない」と言ったこともあります。でも、シネマ歌舞伎で、父と私の『曽根崎心中』を残すことができました。
<後編につづく>
【作品概要】
作:近松門左衛門
脚色・演出:宇野信夫
製作・配給:松竹
出演:坂田 藤十郎 中村 鴈治郎 坂東 竹三郎 松本 錦吾 中村 亀鶴 中村 芝翫 片岡 我當
収録公演:平成21年4月歌舞伎座公演
【曽根崎心中(そねざきしんじゅう)のあらすじ】
遊女のお初と商人の徳兵衛は相思相愛。しかし、徳兵衛は、友人に騙されて伯父に返すはずだったお金をだまし取られる。徳兵衛は名誉を傷つけられ絶望するが、お初は彼を信じる。お初は縁の下に潜む徳兵衛に、「このうえは徳さまも死なねばならぬ品なるが、死ぬる覚悟が聞きたい」と独白で語る。徳兵衛は、お初の足を刃物に見立て喉元に当て「死ぬ決意」を伝える。2人は、来世で添い遂げようと、夜陰にまぎれて曽根崎の森に向かう。

