春日野さんの膝の上に…
清楚な少女役を演じることが多かったぼんこさんは、春日野さんと何度も共演するうちに、気さくに言葉を交わす間柄になっていた。
「大人っぽいヒロイン役をやるのは、決まって浜木綿子(はまゆうこ *編集部注 女優で俳優・香川照之さんの母、市川團子さんの祖母)。私はお色気がなかったから、いつも高校生の役でした」
ぼんこさんはそう言って、「えへへ」と笑った。そして、まさに少女の思い出のような、こんな記憶を語ってくれた。
ある冬の公演中、冷え込む舞台袖に小さなヒーターが置かれていた。
「私が出番前に、上手袖に行くと、石井さんがそのヒーターの前にチョンと座ってらしたのよ」
「おはようございます」と頭を下げるぼんこさんに、春日野さんが手まねきをした。
「ぼんこ。こっち、おいで」
そうして春日野さんの隣で暖をとり、なんということか、膝の上に座らせてもらったというのだ。
「そりゃあ畏れ多かったけどね、3日もそうすると当たり前みたいになっちゃって」
あっけらかんとした言い様に驚く私に向かって、ぼんこさんはまたしてもいたずらっ子のように笑ってみせた。
春日野さんには、ぼんこさんが本当にあどけない少女のように思えていたのだ。可愛らしい笑い声を聞きながら、私はそんな想像をした。