色褪せることはない優しい時間
1960年、ぼんこさんは宝塚歌劇団を卒業した。「ぼんこが結婚して渡米する」と聞いた春日野さんは、「アメリカに遊びに行くから、案内してや!」と明るい調子で送り出してくれたという。
春日野さんの訪米は実現しなかったが、2人は再会することができた。渡米から4年ほど後、初めての一時帰国を果たしたぼんこさんが宝塚歌劇団を訪れたのだ。当時、3歳だった息子とともに懐かしい楽屋へ入ると、顔見知りの上級生が春日野さんに声を掛けてくれた。
「よっちゃん(春日野さん)、ぼんこが子どもを連れて来たで! ちっちゃな、ちっちゃな、豆紳士やでー!」
それが、春日野さんに会った最後になった。彼女は今でも、「ああ、ぼんこ。ぼうやも一緒やね」と笑った、春日野さんの穏やかな表情をはっきりと覚えている。それは、ある冷え込んだ朝、舞台袖の片隅で手招きしてくれたあの笑顔と少しも変わらなかったのではないか。2人の間に流れていた優しい時間は、ぼんこさんの記憶の中で、ずっと色褪せることはない。
