篠井 ね、僕が手を振り上げて、結局殴らなかったんだけど、最初の稽古で拳を振り上げた時、右近さんは微動だにしなかった。やっぱり歌舞伎の人は肝が据わってるなと思いましたよ。

右近 そうでしたか。よくわかってなかっただけだと思う(笑)。上演中に地震がありましたね。あの時、篠井さんも微動だにしなかった。

篠井 僕が湯船に入っているシーンで、その状態のまんま客席に、「大丈夫ですから、そのまま席でお待ちください」って。(笑)

右近 僕はあの時が初めての主演で、座長だったのですが、ああいう時にどうしたらいいかまったくわからなかったので、ありがたかったし、勉強になりました。咄嗟にパッと対応できるのは、まさに《女方さん》なんですよ。立役(たちやく)って、あんまりほかのこと考えてないから……。

篠井 女方は立役さんのことを慮ったりして、それがまた楽しいのかもしれない。

右近 アクシデントに対して、肝が据わっているんですよね、女方さんは。性別を超えて表現している時点で、精神的に乗り越えるべきものが立役より圧倒的に多いと思う。立役はそのままの自分でいられるけど。女方はストレスがたまります。(笑)

篠井 そう、ストレスがたまるから女方は深酒をする人が多い、って言われるけど、僕は全然。女方をやっている時は晴れ晴れと、せいせいとしてますね。むしろテレビとかで、意地の悪い男の役とかを演じている時のほうが、すごくストレスがたまる。(笑)

右近 そういう時はどうしてるんですか?

篠井 撮影現場に行っても黙ってるの。話すと、この柔らかい感じが出ちゃうから。だから別の場所でその時の共演者に会うと、「あの時は感じ悪かったよ~」って言われます。(笑)

後編につづく

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