累計360万部突破の人気ファンタジー小説『デルフィニア戦記』(茅田砂胡 著)の新装版刊行が始まりました。岩本ゼロゴさんの美麗なカバーイラストとともに毎月発売中です。
そこで『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞し、『コンビニ兄弟』のドラマも放映予定の作家・町田そのこさんに、当シリーズとの出会いと魅力を綴っていただきました。
(『新装版 デルフィニア戦記 第1部 放浪の戦士4』巻末解説より転載)
作品の凄まじいパワーに引き込まれて
物語の世界に飛び込むのが好きだ。
特にファンタジー。
現実と乖離した世界に身を委ねるのが心地よい。
その世界のルールを知り、空気を感じ、息づく人々に魅了される。
ときどき、登場人物の誰かに己を重ねたり、誰かに思慕の念を抱いたりしながら、新しい人生を経験する。
物語というのは、違う命を辿れるスペシャルチケットだ。
そんなスペシャルチケットだが、ときどき、凄まじいパワーを秘めているものがある。
こっちが「行ったるぞー!」と乗り気になるタイミングを待たず、ぎゅん!と引き込んできたかと思えば心をがっちり掴んで離さない。
その繋がりは本を閉じても切れず、魂の欠片(かけら)をページの間に挟んできたかのように、心がふっと物語に跳んでしまう。
時の流れなど関係がない。
どれだけ時間をおいても、本を開けばあっという間に物語に引き込まれてゆく。
わたしにとってのそれが、この『デルフィニア戦記』だ。
初めて本作を手に取ったのは、二十数年前だった。
書店で、文庫を偶然見かけた。
えらく長いシリーズなんだなと思いながらも何故か惹かれるものがあり、お試しで二冊だけ買ったのだが、その数時間後猛烈に後悔した。
読み始めてたった十数分で、私の魂の一部は本作に千切られ奪われてしまったのだ。
ああ、わたしのバカ。大バカ。
何としてでも続きを買うべきだった。
せめて第一部の残り二冊くらいは……!
とは言え、お金のないころだった。昼食代や遊興費を削って本代にあてるのが日常茶飯事だった。
この『デルフィニア戦記』のナンバリングは、みなさまもお分かりの通り、外伝を除いて18。
長く物語に浸れることが大いに嬉しく楽しみである反面、己の財布事情を考えると眩暈(めまい)がした。
大人買いをする余裕はなく、となるとゆっくりコツコツ買い集めてゆくしかないのだ。
続きがあるのに手にできないなんて、そんな辛いことがあっていいのか!
何て苦しい道のりが始まったのだ!
