祖母に育てられた思い出

実のところ、当初は売却しようと考えていました。でも不動産屋さんに見積もりをしてもらった結果、「やっぱり売らない」と決断。売却価格の問題ではなく、ビジネスライクに事が進んでいくことが悲しくて。つまり、「この家を簡単に手放したら後悔することになる」と確信したからです。

新築した当時、私は大学の近くで一人暮らしをしていました。卒業後は渡米しましたし、帰国後は都内に家を構えていたので、実家とはいえ、私自身はほとんど暮らしたことのない家なのです。それでも愛着があるのは、母が「この家はおばあちゃんからのプレゼントだ」と言っていたから。

実家は母方の祖母の遺産で購入したものでした。私にとっても祖母は特別な人。シングルマザーとして仕事で忙しい母に代わって私を育ててくれた祖母との日々を思うと、そして母の実家に対する思い入れを考えると、おいそれと売却する気にはなれなかったのです。

中学3年生のころ、母の方子さんと(写真提供:ヨーコ・ゼッターランドさん)

この家のことについては母とよく話し合っていました。実家は周囲にスーパーなどのない住宅街。なので10年くらい前から、週に1回は私が車で食べ物を運び、泊まれるときは泊まるというのがお約束だったのです。

日帰りするにしても、行けばリビングでお茶を飲みながら、今後のことについて意見を交わし合うのが常でした。「そろそろ一緒に暮らす?」とか、「二世帯住宅に建て替える?」とか。もとより母は自立心の強い人でしたので、70代の頃は「私は一人で大丈夫」と言ってましたね。