母と言い合いになったことも

あれは亡くなる数年くらい前だったと思います。「二世帯住宅にしたら、名義はどうなるの?」と訊ねられたことがあって。老人ホームに入所する場合、あるいは長期入院する場合、家を売ってお金を工面するつもりなのに、私と二人の名義になっていてはスッキリいかないのではないか、と案じていたのです。

「お金のことは心配しなくていいから」と伝えても、「私は誰の世話にもなりたくない」などと言い出す始末。あまりの頑固さに思わず、「どの道、最後は誰かの世話になるんだから、そんなことは言わないほうがいいと思うよ」と言い返してしまいました。

一人暮らしを続けるなら続けるで、せめて物を処分しようと持ちかけると、億劫だったのでしょう。「私が死んだら好きにして」と言うのです。「よくそんな無責任なことが言えるね」と、喧嘩に発展してしまったこともありました。

その一方で、「リフォームしようか」という私の提案には乗り気で、ユニットバスを見に二人でショールームへ出かけたことも。

しかしそんな話をしていたのに、あっけなく母は亡くなってしまった。そうした心残りがあったからかもしれません。母が遺した着物、愛用していた洋服やバッグ、大事にしていたアクセサリー、日常的に使っていた器や日用品……。何を見ても切なくて、整理する手が止まってしまう。私は思い出シンドロームに陥っていたのです。