患者さんたちが人生の師

認知症になっても楽しく生き生きと暮らしている人たちがいます。

私は今まで小児科や内科、透析などさまざまな分野で医療に携わってきました。大学病院の物忘れ外来に勤務したこともあります。

しかしこうして街で在宅医療を行う医者になってから、人生に対する見方がコペルニクス的転回をしました。それは患者さんたち一人一人が人生の師というか、「ああ、こういう生き方があるんだ」と、心から尊敬できる方にたくさん出会ったからです。病気のせいでいろいろできないことが増えても、言葉の端々に「さすがだな」と思わせるようなものがあったりする。

そういう方たちに共通するのは、何か自分のポリシーのようなものを持っていることですね。自分がやりたいことや、これをやっていると楽しいんだということを持っている。そういう方は、在宅でも施設にもいらっしゃいます。

その中でもさらに「達人」になると、周りの人をすごくうまく「使う」のです。まるで鵜飼の鵜匠みたいに、医者や介護スタッフを自然に、上手に動かしている。たとえ認知症になっても、その方が人生の中で培ってきた人間力は消えてなくなってしまうわけではないのだと教えられます。