引退後の知られざるエピソード
第一線を退いてから、1940年に82歳で亡くなるまでの約40年間、鈴木雅がどのような日常を送っていたのか、これまでほとんど明かされてきませんでした。今回、孫の康夫さんの手記から、いかにも雅らしいエピソードを紹介します。
あるとき雅は、康夫さんを連れてデパートへ出かけ、食品売り場で若い女性店員に「マヨネーズ」を求めました。康夫さんが小学校低学年の頃なので、1925年~27年あたりのことでしょう。「キユーピーマヨネーズ」の創業者が、日本で最初にマヨネーズを製造販売したのが1925年のことなので、雅は「キユーピーマヨネーズ」が欲しかったのかもしれません。
しかし、店員はマヨネーズ自体を知らなかったようで、雅にマスタードの瓶を差し出しました。雅が「これはマヨネーズではなく、マスタードですよ」と指摘すると、その店員はしたり顔で「おばあさん、これは舶来品ですのでちゃんと英語で書いてありますよ」と瓶のラベルを指さしました。雅は瓶を手に取ると、それがマヨネーズではないことを証明すべく、流暢な英語でラベルを読み上げます。
店員だけでなくまわりにいた客たちも驚き、たちまち人だかりができました。その中にたまたま新聞記者がいて、翌日の新聞に「流暢な英語を話し、マヨネーズを知るハイカラなおばあさん」の記事が写真入りで掲載されました。引退後も、実に雅らしく日々を生きていたことがうかがえるエピソードです。
『風、薫る』の大家直美は、英語が堪能で、自分の信じる道をまっすぐに進む魅力的な人物として描かれています。そのモチーフとなった鈴木雅もまた、時代の制約に縛られず、妻として、母として、看護婦として、自分の人生を切り開いた女性でした。
ドラマは原案をもとにしたオリジナル作品ですが、雅と和が実際に生きた時代を知ると、『風、薫る』の世界はいっそう深く味わえるはずです。2人がどのように出会い、近代看護の礎を築いたのか。ぜひ『明治のナイチンゲール 大関和物語』でも、その歩みをたどってみてください。
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2026年度前期 連続テレビ小説『風、薫る』
【放送予定】3月30日スタート
●毎週月曜~土曜
●総合 午前8時~8時15分
●総合 午後0時45分~1時00分(再)
※土曜は一週間を振り返ります
<毎週月曜~金曜>
●BS・BSプレミアム4K 午前7時30分~7時45分 ほか
【 作 】 吉澤智子
【 原案 】 田中ひかる 『明治のナイチンゲール 大関和物語』
【 音楽 】 野見祐ニ
【 主題歌 】 Mrs. GREEN APPLE 「風と町」
【制作統括】松園武大
【出演】見上愛、上坂樹里、佐野晶哉、小林虎之介、早坂美海、藤原季節、三浦貴大、内田慈、丸山礼、小倉史也/根岸季衣、小林隆、髙嶋政宏、片岡鶴太郎、/多部未華子、原田泰造、水野美紀、坂東彌十郎、北村一輝 ほか
『明治のナイチンゲール 大関和物語』(著:田中ひかる/中央公論新社)
今や看護師は、社会に欠かせない職業である。所定の学校で専門知識や技能を身につけ、国家試験に受かってはじめて就くことのできる専門職であり、人の健康や命を守る尊い職業として、広く認知されている。しかしかつては、「カネのために汚い仕事も厭わず、命まで差し出す賤業」と見なされていた。家老の娘に生まれながら、この「賤業」につき、生涯をかけて「看護婦」の制度化と技能の向上に努めたのが、大関和(ちか)である。和は離婚して二人の子を育てる母親でもあった。和とともに看護婦となり、彼女を支え続けた鈴木雅もまた、二人の子を持つ「寡婦」であった。 これは近代日本において、看護婦という職業の礎を築いた二人のシングルマザーの物語である。





