二〇二五年 六月(1) 
 
 私は朝から鏡の前で絶望的な気持ちになっていた。
 顔周りの白髪。細かいシミ、ほうれい線、くすんだ肌、口角の下がった唇、たるんだ顎のライン、皺の寄った頸。鏡の中にいるのは疲れ切った老婆だった。六十歳どころかもっと歳上に見える。
 でも仕方ない、とため息をついた。若い頃から綺麗だと言われたことはない。「大人びているね、落ち着いているね」が私に与えられた言葉だった。その言葉がそのまま六十歳になって「老けているね、生気がないね」になっただけだ。
 買物帰りにドラッグストアへ寄り、父のオムツの特大パックと防臭ビニール袋、お尻拭きを買ってカートに積んだ。レジへ向かおうとしたのだが、化粧品売り場でふと足が止まった。
 もう何十年もいい加減な化粧しかしていない。若い頃はお金がなくてデパコスなど無理だったし、結婚してからは家事育児介護で化粧どころではなかった。スーパーやドラッグストアで売っているお手軽価格の物を適当に買っていただけだ。
 私はカートを押しながら化粧品売り場を歩いた。若い女性向けのプチプラブランドのコーナーはどれもキラキラして区別がつかない。アンチエイジングを謳うブランドは落ち着いていて、年配の有名女優がモデルをしていた。