60歳を過ぎた木綿子は父の介護と引きこもりの娘の世話に日々追われている。不幸ではないが、いろんなものを諦めてきた人生だった。けれど、ひょんなことから知り合った2歳年下の男と出逢う。二人は互いに惹かれていくが……。遠田潤子さんが描く、静謐で過激な大人の恋愛小説。ぜひお楽しみください。


        第二章 一二〇歳の愛

 寝室を片付け、霧の居場所を作ることにした。
 いつまでも鴨居に半纏を吊しておくのは不格好なので着物用の衣桁(いこう)を買った。寝室の隅に衣桁を置いて印半纏を掛ける。その下に台を置いて桐下駄と日傘を並べると、これで「霧セット」は完成だ。
「霧さん、これでいつでも出かけられるね」
 印半纏に話しかけるのも日課になった。今は照れたりせず、ごく自然になんでも話せる。
「霧さんのお出かけは楽でいいね。女はそんなふうにはいかないの。お化粧も服装も、ちょっと手を抜くといっぺんに惨めになってしまうから」
 霧と出会ってから思い知らされた。仕事で必要とされるくらいの見苦しくない格好をしていたつもりだったが、あくまでそれは最低限でしかなかったのだ。
「ねえ、霧さん、聞いてください。出会ったばかりの頃の私の話。私、霧さんと出会って、すごく落ち込んだんですよ。どんなに自分が老け込んでいたかに気付いて」

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