女優の顔の横にある美白・潤い・ハリに効果と書かれた美容液を手に取ってみた。POPには「あなたの人生を変える一滴」とある。
 この一滴で本当に人生が変わるのか? 変わるわけがない。変わったような気持ちになるだけだ。
 そう思いながらも私はその美容液の前から動けなかった。変わったような気持ちになれるのなら、それだけでもいいのではないか。
 ずいぶん迷って美容液をカゴに入れた。すると弾みが付いた。どうせならこの機会に揃えてしまおう。カバー力の高い下地クリームとファンデーション、コンシーラー、フェイスパウダー、口紅、アイライナー、マスカラ、アイシャドウ、新しいスポンジなどなど。私は次々とカゴに入れていった。
 なんだか頭がぽうっとしている。足許がふわふわしているような気もする。ドラッグストアでの買物に浮かれているのははじめてだ。
 会計をすると思わず眼を疑うほどの金額で、さっと血の気が引いた。父が知ったらなんと言うだろう。絶対にバレないようにしなければ。
 でも、自分のためにこんな金額を使ったのは何年、何十年ぶりだろうか。綺麗になった自分を想像するとじわりと胸が熱くなった。これで霧の横を歩いても恥ずかしくない女になれるかもしれない。化粧を変えたら霧は気付いてくれるだろうか。なにか言ってくれるだろうか――。