「あの、私、やっぱり戻ります。麻子になにも言ってないし……」
「後で連絡すればいい」
「でも」
 霧は黙っている。
「……霧さん、ごめんなさい。父が酷いことを」
「気にしてない」
「病気のせいなんです。でも、そんなの言い訳だってわかってるんですが」
「差し出がましいようだが……自宅介護が最良とは限らない。施設への入所は考えないんですか?」
「何度も考えました。実際に見学に行って体験入所をしたこともあります。でも、上手くいきませんでした。施設には絶対入らない、と頑強に言い張って。それに入所費用だって私には払えません。父が納得するようなホームはとても高額です。この家は父の名義だし、銀行の預金もそうです。父がうんと言わなければどうしようもないんです」
 そう、なにもかも詰んでいるのだ。