「でも、このままじゃ、あなたも麻子ちゃんも潰れてしまう」
「私は仕方がない。でも、麻子には申し訳ないと思ってます。父とは昔のこともあって……逆らえないんです」
「昔のこととは?」
「麻子は生まれてすぐに心臓に異常が見つかって手術をしました。そのときの費用を援助してもらったんです。夫が亡くなってからは実家に帰って麻子を育てました。父はそのときのことを言うんです。……さんざん世話になったくせに、親を見捨てる気か? と」
「親が子供に恩を着せてはいけない。あなたのお父さんは間違ってる」
「……麻子は身体が弱くて手の掛かる子でした。小学生の間は病院と家を行ったり来たりで、中学校に行くようになってもしょっちゅう熱を出して早退して……。でも、本人はとてもいい子でした。わがままや文句は一言も言わず、家にいるときは私がなにも言わなくても家事を手伝ってくれて。本当にいい子だったんです……」
「わかります。麻子ちゃんはいい子だ。ただ三十歳になった娘をいい子だ、と言うのは問題があると思う」
 私は返事ができなかった。麻子を「いい子」の枠に閉じ込めているのは私か。