うなる瞬間が最も恐ろしい

私は、カメラのファインダーの中でクマと視線が合い、カメラ目線になることを追求してきた。

この場所には年間5頭ほどのクマが入れ替わりながら出没するが、なかには私の顔を見るなり体を上下に揺すって「ごわごわ」とうなりながら威嚇するオスグマがいる。

『家に帰ったらクマがいた』(著:米田一彦/PHP研究所)

クマはうなる瞬間が最も恐ろしい。ここから稀に、威嚇という「みせかけの攻撃」に移ることがあるが、10メートルの距離まで詰められれば、クマ撃退スプレーを撃っても突破してくるだろう。クマがうなったときは、私はとにかく石のように固まり、クマが去るのを待つようにしている。

私がクマを追って55年間、鋭い爪で引っかかれることがなかったのは、目の前のクマの情動の意味を見切れたからだと思う。とくにクマが食事をしているときは興奮しているため、襲われると危険だ。

体を上下に揺すって「ごわごわ」とうなる。私を攻撃するか迷っている(写真提供:米田一彦)

また母グマは、子グマが他のオスグマに襲われないかつねに警戒しているので、近くに子グマがいる場合は母グマに警戒されないことが重要である。

ただ遭遇した場合は、こちらが動かないと無視され続けるものだ。クマの姿を見る必要がない方は、そもそもクマと出会わないようにするのが賢明だろう。