いいこと尽くめのバイトはない どこに行っても人間関係は悩みのタネ
ただし嫌なこともある。たまに相性の悪い班長と一緒の組になることがある。この男が傍若無人なのだ。
「私より2、3歳年上で、言葉遣いを知らない男なんです」
勝俣さんが初心者だったころ、作業の手順を間違えると、男は「何やってんだこの野郎!」「早くしろバカ野郎!」と怒鳴りつけてきた。名前も「勝俣さん」と呼ばず、いつも「あんた」呼ばわりで、敬語も使わない。この男は世情にうとく、世間話をしても「そんなの俺は知らねえよ」とつっけんどんな態度を示す。
「無教養なのはいいとして、いまだに命令口調で指示し、大声でバカ呼ばわりしてくるんです。これまでどんな仕事をしてきたのかはわかりませんが、コンプライアンスやハラスメントの概念を知らない荒くれ男。あまりにひどい物言いをするので、報告書を書いて区に告発しようと考えています」
勝俣さんは知人の弁護士に相談。「相手の暴言を録音できなくても構わない。『バカ野郎』と侮辱された日時をメモしておけば自治体に訴えることができる」とアドバイスされたそうだ。そこでポケットにメモ帳を入れて暴言を吐かれたら、すかさずメモを取るようにしている。
嫌な人間はいるが、この仕事が気に入っている。
「友人たちに話すと『公園掃除なんて、一流大学を出たキミがやる仕事じゃないだろ』『よく家族が許したね』と彼らは顔をしかめますが、私は何とも思わない。この仕事を恥ずかしいと思ったこともありません。プライドで凝り固まっていてはお金は稼げないし、健康にもなれませんよ」
目下の楽しみは銭湯だ。自宅マンションに風呂はあるが、仕事が終わると少し離れたところにある銭湯に足を伸ばしてひとっ風呂浴びる。自治体の補助があるため、勝俣さんの年齢の人は100円で入浴できるのだ。
「風呂に入り、家に着いたらビールを飲みます。仕事終わりのビールは格別。会社勤めのころよりずっとおいしいですよ」
勝俣さんによれば、真夏の公園で汗を流すのは無料のサウナに入っているようなもの。全身の汗を銭湯で洗い流し、人生で一番おいしいビールを飲む。
「サラリーマン時代を含めて、今が最高に幸せです」
と笑う勝俣さんがなにやら羨ましく思えた。
※本稿は、『年金だけじゃ生活できない!「定年バイト」奮戦記』(秀英書房)の一部を再編集したものです。
『年金だけじゃ生活できない!「定年バイト」奮戦記』(著:林山翔平/秀英書房)
現在65歳の著者が数々のバイトの面接に潜入取材を敢行!
60代以上の年金世代に捧ぐ、怒り、ユーモアと皮肉を交えて綴るエンターテインメント・ドキュメンタリーエッセイ。




