ピュアだったあの頃を追体験する
おとなしく人を見ている 知りたいと思えない人ばかりだねピアニッシモ
場面としては今は難しい路上喫煙かと思いました。「知りたいと思えない人ばかり」と道ゆく人を見る姿は、孤高の心とわずかな寂しさが見え隠れします。しかし、その主体が話しかけているのはおそらく愛用品の煙草のピアニッシモ。ここに、主体の居場所のようなものを感じますね。
踏まれたら踏みかえしておく満員のデンシャにゆれるほどのプライド
同じく都市の風景です。「デンシャ」とカタカナで書かれることで、主体にとって電車がとても親しいものではないのではないかと窺い知れます。そして「踏まれたら踏みかえしておく」、モラルとしてどうかということは置いておいて、されるがままの主体でないことがわかります。一人だけれど、ちゃんと意思を持って都会で立っている、その心意気を見ることもできましょう。
そしていつか僕たちが着る年月という塵のようなうすいジャケッツ
若い時期の作者の歌として、感慨深いものがあります。まだ若い「僕たち」がいつか着る「年月という塵のようなうすいジャケッツ」。年月もまだ重いものに感じていないというより、その日暮らしのような「僕たち」にとって年月はきっとはかなくて薄いものなのだろう、という認識が近いかもしれません。
……さて、ここまで読んできまして、若いまだ未来が見えない女性の姿に、思うことはたくさんあります。もうキャリアを積んだお嬢様方も、いつかはそんな女性の一人でありました。ぜひ、早坂類さまの歌集を味わっていただき、文学の中だけでもピュアな気持ちを持っていただきたいものでございます。
……と、お嬢様、すっかり心は乙女。目は潤み、過去を省みて、なんと清々しい表情でございましょう。……え? 今から意中のバンドマンにLINEで思いの丈を伝える? ノーノー! 急すぎますし、何より深夜でございます。深夜のラブレターほど朝読んで恥ずかしいものはないもの。……いやいやいや、これは止めなければ。え? このタイミングで絶対送りたい? え? もう書いた? ああー、送信ボタンが! 怖い怖い怖い! どうなることやら。でもお嬢様の目は、ますます輝いておりますな。明日が悲劇にならないといいのですが……。
今回ご紹介した歌人
早坂 類(はやさか・るい)
1959年山口県生まれ。19歳の時「詩歌」に入会。1986年、青木景子の名で「詩とメルヘン賞」受賞。その後、作詞家として今井美樹、森山良子、オメガトライブなどのアルバムに参加。1988年、早坂類として短歌研究新人賞次席。1990年、吉増剛造氏の選により「ユリイカの新人」。青木景子名義の著作も多数あり。
