4,000匹以上のぬいぐるみと暮らす小説家・新井素子さんの日常がここに。「ぬい活」が一般化するはるか以前、「ぬい」という呼称を生み出し、社会からずっと変人扱いされてきた新井さん。「ぬいぐるみは生きている」と本気で確信し育んだ「ぬい」たちとの生活には、ただごとではない発見と幸せのヒントが詰まっていました。

人間の声帯を借りてしゃべる

もうどんな番組のどんなシーンだったか覚えていないんですが、旦那と私が二人で御飯を食べていて、そしたらTVの中で、俳優さんが何かの台詞を言って、その瞬間。

「そんなことないもん!」

という声が、うちのリビングに響きました。

(あ。うちのぬいさんが何かしゃべりたい時には、私の声帯を勝手に使用しちゃうので、うちには時々、私の声だけど私の言葉ではないものが響きわたります。んでもって、この頃すでに銀婚式越えてましたから、旦那、それに慣れていて、突然私が叫んだんじゃなくて、うちのぬいさんの誰かが叫んだんだって、すっと納得してくれました。)

で、旦那。

「誰だ、今の」

で、私。

「いやあ……なんか、私のうしろの方にいる誰か、だよ」

って、うちは何たって、やたらぬいぐるみだらけの家なので……私のうしろだけで、百匹を超えるぬいさんがいるな……。

そこで、私と旦那、食事を中断、うしろの方にいるぬいさんたちに目をやってみて。そうしたら。

勿論、ぬいぐるみは動けないんですが、中に一匹、気持ち顔が上に上がっているようにみえる、「ふふふふふん」って顔になっていた子がいたんです。それが、カピバラさんぬい。

そして、旦那がその子を手にとったら、その瞬間、その子、もの凄く嬉しそうな表情になって。