「母との葛藤というのは、友達であっても喋りづらい話題だなと」

癒される「男性像」も魅力の作品

『そして、バトンは渡された』の主人公、優子は、早くに実母を亡くし、継母の梨花さんと暮らします。梨花は優子をある意味「翻弄」するのですが、毒親とはちょっと違いますね。

―― 一見自由奔放で、時々の事情で優子の父親が入れ替わっていく。それだけ聞くと、とんでもない母親なのだけど、その行動にも深いわけのあったことが、やがて明らかになります。

この作品では、優子と同じように父親たちも梨花に振り回されるわけですが、その描き方も秀逸です。今の父親の森宮さんは、「身近にいたらいいな」と思わせてくれる男性そのもの。別に少女漫画に出てくるようなヒーローではなくて、ちょっと抜けているところもあるのだけれど、実の子ではない優子のことを温かく見守っている。読んでいると、やっぱりその関係性に癒されるんですよね。瀬尾さんは、ケアする力の高い男性の表現が本当に上手いなあ、と感じます。

そういうのも含めて、この作品は、「自分の居場所はここにあるんだ」と思わせてくれる。今は、家族でも友達でも恋人同士でも、心を大きく開く関係をつくる時間をとることがなかなか難しいじゃないですか。『52ヘルツのクジラたち』もそうですが、描かれているのは、普通とは違う家族、人間関係だけど、そこにも居場所を見つけられるというか、むしろ違う形だから、安心して「居る」ことができる。そんなところに皆さん魅力を感じているのではないか、と想像するんですよ。

 

『52ヘルツのクジラたち』には、親による子どもの支配や虐待なども扱われています。

――主人公である貴瑚の「過去」と、移り住んだ地で偶然出会った少年の「今」がシンクロしつつ、ストーリーが展開していきます。確かに重いテーマを描いているのですけど、やっぱり暗い気持ちで終わらせず、読者をちゃんと優しいところに届けてくれるところがこの小説のすごさであり、多くの人に読み続けられる理由もそこにあると感じます。