2025年にはNHK紅白歌合戦の審査員も務めた文芸評論家の三宅香帆さん(撮影:本社 奥西義和)

読書好きにはおなじみの「本屋大賞」は、2004年に設立された、NPO法人・本屋大賞実行委員会が運営する文学賞だ。「芥川賞」や「直木賞」など、国内の文学賞は主催が出版社で、選考委員は作家が務めることが多い。一方で本屋大賞は、「新刊を扱う書店の書店員」の投票によってノミネート作品、および受賞作が決定される。2019年には瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』2021年には町田そのこさんの『52ヘルツのくじらたち』が受賞し、2作は文庫化されてから今も読まれ続けている。本屋大賞受賞作がロングセラー化するのはなぜなのか。文芸評論家として活躍し、著書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が大きな話題を呼んだ三宅香帆さんに、近年のベストセラー小説の特徴や読者心理、本屋大賞が果たす役割について聞いた。

(構成:南山武志 撮影:本社奥西義和)

母娘の「葛藤」に共感

今年の本屋大賞に、朝井リョウさんの小説『イン・ザ・メガチャーチ』が選ばれました。本屋大賞を受賞した小説には、文庫化された後も勢いが落ちずに売れ続ける作品が多く、瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』(2019年受賞)、町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』(2021年受賞)は、近年の〈双璧〉といえます。この2冊が支持されている理由はどこにあるのでしょう?

――本屋大賞を審査するのは全国の書店員さんたちですが、そこは女性が中心的に活躍している現場でもあるんですね。作家や編集者というと男性が中心になることも多いですが、本屋大賞の場合は彼女たちの心に刺さった作品が選ばれやすい。そこが他の文学賞などとはちょっと違うのでは、と感じます。

実はこれは、本のマーケティングという点からも合理的なお話なのかなと。どういうことかというと、クロス・マーケティングの読書調査によると、「50代以上においては男性より女性のほうが本を読んでいる」というデータがあります。他の文学賞とは異なる属性の、さらに本を読み込んでいる人たちが「これは面白い」と推す本なのですから、読者に響いて当然だと思うのです。

では、この2冊がどんな作品なのかというと、共通するのは、母親との関係に「葛藤」する娘が主人公の小説だということ。昨今、いわゆる毒親の存在がクローズアップされていますよね。多くの人が、そこに描かれた世界に共感を覚えながら読んでいるのではないでしょうか。

 

文庫化されて売れ続ける本屋大賞受賞作の2作。左:『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ:著/中央公論新社)/右:『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ:著/文藝春秋)

 

『婦人公論』でも、以前は嫁姑問題をテーマに取り上げることが多かったのですが、ある時期から母娘関係に関するものが目に見えて増えました。

――姑と違い母との葛藤というのは、友達であっても喋りづらい話題だなと。年齢を重ねれば、なおさらではないでしょうか。でも、フィクションの世界なら、登場人物に共感することも、自分を投影することもできます。そういうふうに、自分の気持ちを掬い上げてくれる感覚が、これらの作品にはあるのだと思います。