校長先生の大粒の涙の理由
大熱唱に息を切らしたぼんこさんは、舞台のすぐそばに立つ校長先生に気がついた。
笑顔を浮かべ、大きな仕草で手を叩く校長先生の目から、大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちていた。
ぼんこさんは驚いて、ハッとした。校長先生の涙の理由を考える前に、「もっと頑張って歌おう!」と心を奮い立たせ、彼女はますます声を張り上げた。校長先生は流れる涙をぬぐうこともせず、舞台で跳ね回る子どもたちに向かって、精一杯の力で手を叩き続けていた。
ぼんこさんたちの学校が空襲を受けたのは、その翌日のことだった。生徒が下校した後の出来事だったので、幸いなことに子どもの死傷者は出なかった。しかし、校舎内に残っていた校長先生は命を落とした。
大粒の涙の理由を、優しい笑顔の理由を、校長先生に聞くことは叶わなかった。そのお別れは、戦争によって突然にもたらされたのだった。
「校長先生の、あの笑顔と涙が、忘れらんなくて。ずーっと、ね」
そう語る彼女の声は、わずかに震えていた。
当時、大人の男性が人前で泣くことは現代より少なく、滅多になかったという。
「なぜ、校長先生は涙を流したのだと思いますか?」
私が投げ掛けた問いに、彼女は少し首を傾げてから答えた。
「戦争で大変な思いをしている子どもたちが、明るく歌って踊って。その姿がいじらしくって、嬉しかったんだと思うよ」
自らの言葉を噛み締めるように、ぼんこさんは「きっと、そうね」と呟いた。