そうなると4階建ての一軒家は、私たちには広すぎて……。また、登戸の家は設計から調度品までほぼすべて、先生の亡くなった奥様で著名なドイツ文学者だった子安美知子さんのセンスで設えられていました。

私自身も、彼女の家にお邪魔させていただいている感がいつまでも拭えなかった。ふたりきりになったとき、「先生と新たな場所で生活を築きたい」と思いました。それは、私だけの願いではなかったようです。

ある日、何の前置きもなく新築マンションの内見に誘ってみたら、彼も二つ返事で賛同してくれた。そこから、今後ふたりで生きていくための終の棲家探しが始まりました。

私たちが重視したのは、駅、スーパーマーケット、病院が近く、坂道が少ないこと。そして、まっさらなところで夫婦の生活を始めたかったため、新築マンションにこだわりました。

先生は戦時中に疎開してきて以来、ずっと登戸に暮らしてきたので、まずは土地鑑のある小田急線沿線へ。2軒、見に行きましたが、どちらも駅から20分ほどバスに乗る必要がありました。内見の帰り道、彼が「こんなにバスに乗るのは厳しいね」と。

高齢の私たちには、駅に近いことも大切なポイント。予算的に都内の駅近は難しいとわかり、範囲を広げて探したところ、3軒目で現在の住まいに巡り合ったのです。

最寄り駅に馴染みはなかったものの、北鎌倉に徒歩で行けることにも惹かれた。幼い頃から大好きな鎌倉を、先生とのんびり散歩している暮らしが目に浮かびました。